雨の日に古傷や関節が痛むのはなぜか|研究と現場が食い違う理由
「明日は雨だね、膝が痛むから」——お年寄りがそう言うのを、迷信のように聞いた覚えがある方も多いと思います。
私は接骨院で19年施術をしていますが、**こういう方は確かにいます。**天気が崩れる前に「今日は古傷が」と来られる。頭痛が先に出る人、腰痛がひどくなる人。
ただ、**少数です。**全員ではありませんし、多数派でもありません。
そして調べてみると、大規模な研究では**「天候と関節痛に関連はない」**という結果が繰り返し出ていました。現場の感覚と食い違います。
この記事では、その食い違いをそのまま扱います。**なぜ研究では出ないのに、痛む人が実在するのか。**そして痛む側は何をすればいいのか。
この記事で分かること
・大規模研究が「関連なし」と言っている中身 ・それでも痛む人がいる理由(50人に1人という数字) ・気圧を感じ取っているのは関節ではなく内耳だったという発見 ・私が現場で使っている「閾値」の考え方 ・痛みが出る前と、出てからで変える対処
まず、大規模研究では関連が出ていません
ここは正直に書きます。私の実感と反対の結果ですが、規模が違いすぎるので無視できません。
アメリカの受診データ155万人・1,167万回分を調べた研究(Jena AB, et al. BMJ, 2017)では、 雨の日と雨でない日で、関節痛・腰痛での受診割合に臨床的に意味のある差は見られませんでした。
わずかな差は出たものの、予想とは逆の方向でした。関節リウマチの人だけを取り出しても、 関連は見つかっていません。
さらに、11件の研究・15,315人分を統合したメタ解析(Ferreira ML, et al. Seminars in Arthritis and Rheumatism, 2024)でも、湿度・気圧・気温・降水量のいずれも、 関節リウマチ・膝の痛み・腰痛の危険因子とは言えないと結論されています。
つまり、「天気が崩れると、みんなの関節が痛くなる」という話ではないということです。
ここは私も認識を改めました。「天気痛は誰にでも起こる」という前提で書かれた記事をよく見かけますが、集団で見ればそうなっていません。
それでも痛む人はいます。50人に1人という数字
では「気のせい」なのかというと、そうではありません。調べ方を変えると、話が変わります。
さきほどの研究は「集団の平均」を見ています。平均を取ると、反応する少数の人が、反応しない多数の人に埋もれてしまいます。
そこで、一人ひとりを個別に分析した研究があります。
イギリスの「Cloudy with a Chance of Pain」という研究では、慢性痛のある13,000人以上が スマホアプリで毎日の痛みを記録し、同時に1時間ごとの気象データを紐づけました。
その一人ひとりを個別に解析した結果(Yimer BB, et al. Pain Reports, 2022)——
| 何に反応するか | 割合 |
|---|---|
| 気温 | 10人に1人 |
| 相対湿度 | 25人に1人 |
| 気圧 | 50人に1人 |
| 風速 | 100人に3人 |
しかも**反応の向きは人によって違いました。**同じ気圧低下で悪くなる人も、 逆に楽になる人もいたということです。
この数字を見たとき、現場の感覚とようやく一致しました。
**「予報が当たる人」は確かにいる。でも50人に1人。**接骨院には痛みのある方ばかりが来られるので、私の目には多く映りますが、世の中全体で見れば少数派です。
「気のせい」でも「みんなに起きること」でもありません。
問われているのは、あなたがその1人かどうかです。
そして興味深いことに、この研究ではもともとの病気の種類では、天気に反応するかどうかを 予測できなかったとも報告されています。「関節リウマチだから反応する」といった単純な話ではない、 ということです。
感じ取っているのは関節ではなく、内耳でした
ここで私自身の考えを訂正しておきます。
私はずっと、気圧が高いときは空気の圧が体を外から支えていて、天然のコルセットのように働いているのではないかと考えていました。低気圧になるとその支えがなくなる、と。
これは違いました。
気圧の変化はせいぜい1〜3%程度ですし、**体は密閉されていないので、圧力は内側にも外側にも等しくかかります。**締めつけの差は生まれません。私の想像でした。
実際の仕組みは、まったく別のところにありました。
気圧センサーは、内耳にありました。
ラットの実験で、低気圧にさらすと痛みの反応が強まることが確認され、 その気圧を感知している場所が内耳であることが示されました (Funakubo M, et al. European Journal of Pain, 2010)。
さらにマウスの実験では、気圧を40hPa下げると、 内耳とつながる前庭神経核(上前庭核)の神経細胞が実際に活性化することが確認されています (Sato J, et al. PLoS ONE, 2019)。このとき、動きの量自体は変わっていません。
つまり、こういう筋道です。
① 気圧が下がる
↓
② 内耳がそれを感知する
↓
③ 前庭神経を通じて神経が活性化する
↓
④ 自律神経(交感神経)が優位に傾く
↓
⑤ 痛みを感じる閾値が下がる = 同じ状態でも痛く感じる
関節が締めつけられているのではなく、センサーが反応して、痛みの感じ方が変わっている。
ここが大事なところです。**痛みの原因そのものが増えているわけではありません。**元からあったものが、感じやすくなっているだけです。
※これらは動物実験の結果です。人間で同じことが起きているかは、まだ確かめられていません。 ただ「乗り物酔いしやすい人は天気痛も出やすい」と言われるのは、この筋道と矛盾しません。
私の見方:ギリギリの人が、押し出される
ここからは私の考えです。研究で確かめられたものではなく、現場で見てきた印象から整理したものです。
気圧で痛くなる人は、普段から限界ギリギリのところにいるのだと思っています。
天気が原因で新しく痛みが生まれるのではなく、もともとギリギリで持ちこたえていた人が、 ひと押しされて超えてしまう。
そのひと押しが、気圧であり、自律神経の乱れであり、湿気で体が重く感じることであり、 雨で動かない日が続くことです。
これは肩こり・腰痛の記事で書いた**「かかる負荷 > 耐える力」**とまったく同じ構造です。
- 耐える力に余裕がある人は、気圧が下がっても超えない
- ギリギリの人だけが超える
だから「50人に1人」なのだと、私は考えています。天気に反応する人が特別なのではなく、余裕がない状態の人が反応しているのではないか、と。
痛む場所に偏りはないと思っています
「古傷が痛む」「膝に出る」とよく言われますが、部位そのものに偏りがあるとは思っていません。
私の実感では頭痛・腰痛・膝が多いのですが、これは**接骨院に来られる方がその症状の人だからです。**私が見ている範囲が偏っているだけで、天気が特定の部位を狙うわけではないでしょう。
実際、さきほどのメタ解析でも**関節リウマチ・膝・股関節・腰のいずれについても、天候との関連は確認されていません。**特定の部位だけ天気に弱い、という結果は出ていないということです。
対処:出る前と、出てから
ここが実際に役立つところです。痛みが出る前と出た後で、やることを変えます。
出る前:ギリギリにならないようにしておく
これが本命です。天気は変えられませんが、耐える力のほうは上げられます。
① 普段から動かす
雨で動かない日が続くと、それだけで余裕が減ります。関節をゆっくり曲げ伸ばしする、 軽く歩く、室内でできる運動を決めておく。雨の日でも座ったままできるストレッチでも構いません。
② お風呂で温めて血流をよくする
湯船につかる。シャワーで済ませない。血流が保たれていること自体が余裕になります。 自律神経のオンオフを切り替える練習にもなります。
③ 筋トレで、体そのものを強くする
いちばん根本的なところです。支える力が増えれば、同じ気圧変化でも超えにくくなります。 膝の記事で書いた四股立ちやスクワットのように、 関節を動かさず止まったままの運動から始めて構いません。
**この3つは、天気痛のための特別なケアではありません。**体の余裕を増やす、ごく普通のことです。だからこそ効くと考えています。
出てから:基本は同じ。ただし過敏なときは動かさない
痛みが出てしまったときも、**基本の考え方は変わりません。**温めて血流を保つ、動かせる範囲で動かす。
ただし、判断を変える場面があります。
過敏になりすぎているときは、あまり動かさないでください。
痛みの感じ方が強くなっている状態で無理に動かすと、かえってつらくなることがあります。 「動かしたほうがいい」は、動かせる状態のときの話です。
そういうときの選択肢として、私は次のように考えています。
- コルセットやサポーターで支える — 外から補助してもらう。膝の記事でも書きましたが、 使うと筋肉が弱るとは言い切れません。動くときに使い、休んでいるときは外すのが基本です
- 痛み止めに頼るのも、選択肢のひとつ — つらいときに我慢し続ける必要はありません
ここははっきりさせておきます。
私は柔道整復師であって医師ではないので、薬を出すことも、飲むように指示することもできません。 上に書いたのは一般論として、そういう選択肢もあるという話です。
実際に使うかどうか、どれを使うかは、薬剤師や医師に相談して決めてください。 とくに頻繁に必要になっている場合は、それ自体が相談すべきサインです。
そして膝の記事でも書いたことですが、痛み止めは痛みの信号を止めているだけです。楽になっている間に無理をすると、かえって悪くなることがあります。薬で作った時間を、①〜③のほうに使ってください。
「天気だから仕方ない」と諦めている方へ
よく言われます。「天気だから、どうしようもないですよね」と。
半分そのとおりです。気圧は変えられません。
でも、超える側の高さは変えられます。
私はこうお伝えしています。
天気で影響を受けるのは、ギリギリだからです。
だから、影響を受けない強い体を作っていきましょう。
50人に1人しか反応しないということは、裏を返せば49人は同じ気圧変化を受けても超えていないということです。
その差は「天気に強い体質」に生まれついたかどうかではなく、余裕がどれだけあるかの差だと私は考えています。そして余裕は、あとから増やせます。
気圧のほうは動かせません。**動かせるのは、耐える力のほうだけです。**そしてそれで十分だと思っています。
これは膝の痛みでも、肩こり・腰痛でも同じことを言っています。**原因を取り除けないなら、耐えるほうを上げる。**私が現場で一貫して伝えているのは、結局この一点です。
記録をつけると、自分がどちらか分かります
自分が「50人に1人」なのかどうかは、記録すれば分かります。
- 痛みが出た日と、その日の気圧を並べて書く
- 2〜3ヶ月続ける
これで、本当に気圧と連動しているのか、それとも別の要因(睡眠不足、動かなかった日、冷え)と重なっているだけなのかが見えてきます。
やってみると「気圧ではなく、前日に歩いていない日だった」と分かる方もいます。そうであれば、対処はもっと簡単です。
受診を考える目安
セルフケアの範囲を超えているサインです。
- 腫れ・熱感・赤みを伴う
- 天気に関係なく痛みが続くようになった
- 痛みの場所や質が変わった
- 関節が動かしにくい、変形してきた
- 痛み止めを使う頻度が増えている
- 日常生活に支障が出ている
天気痛だと思っていたものが、別の病気だったというケースもあります。 「いつもの天気痛」と決めつけないことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 結局、天気痛は本当にあるんですか?
A. 集団で見ると関連は確認されていません。一方で、個人を追った研究では50人に1人が気圧に反応すると報告されています。「誰にでも起こること」ではないが、「気のせい」でもない、というのが現時点で言えることです。
Q. 痛むのは雨の日ですか、その前日ですか?
A. 気圧の低下が先に来るので、降る前に感じる方が多いです。ただし、これも反応する人の中での話です。
Q. 私は天気痛かどうか、どう確かめればいいですか?
A. **記録が確実です。**痛んだ日の気圧を2〜3ヶ月書き留めてください。連動していなければ、原因は別のところにあります。
Q. 乗り物酔いしやすいと天気痛になりやすい?
A. 気圧センサーが内耳にあるという実験結果があるので、**筋は通っています。**ただし人間で確かめられたわけではないので、そういう可能性がある、という段階です。
Q. 温めるのと冷やすの、どちらですか?
A. 慢性的な痛みは温めるのが基本です。ただし腫れや熱感がある場合は別なので、迷うときは相談してください。
Q. サポーターは使ったほうがいい?
A. **痛みが強いときは使ってください。**支えが増えるぶん負担が減ります。ただし一日中つけっぱなしにせず、動くときに使い、休んでいるときは外すのが基本です。
Q. 痛み止めを予防的に飲んでおくのは?
A. **私からは何とも言えません。**柔道整復師は薬について指示できる立場ではないので、医師や薬剤師に相談してください。頻繁に必要になっているなら、そのこと自体を相談材料にしてください。
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まとめ
まとめポイント
- **集団で調べると、天候と関節痛の関連は確認されていない。**155万人の受診データでも、15,315人のメタ解析でも同じ
- **一方で、個人を追うと50人に1人が気圧に反応する。**しかも反応の向きは人によって違う
- **「気のせい」でも「みんなに起きること」でもない。**あなたがその1人かどうかという話
- **気圧を感じ取っているのは関節ではなく内耳。**締めつけられているのではなく、感じ方が変わっている
- **私の見方:ギリギリの人がひと押しで超える。**天気が新しく痛みを作るわけではない
- **出る前は、動かす・温める・鍛えて余裕を増やす。**これが本命
- **出てからは、過敏なときは無理に動かさない。**サポーターや痛み止めも一般論としては選択肢(薬は医師・薬剤師へ)
- 気圧は変えられないが、超える側の高さは変えられる
今日からできる3ステップ実践チェックリスト
- 痛んだ日の日付と気圧を記録して、自分が本当に反応しているか確かめる
- 雨で動かない日を作らない(室内でできる運動を決めておく)
- 湯船につかる日を増やして、血流と自律神経の切り替えを保つ
※本記事の情報は一般的な健康情報の提供を目的としており、医療アドバイスではありません。特定の疾患の診断・治療法を示すものではありません。 薬の使用については、必ず医師・薬剤師にご相談ください。腫れ・熱感を伴う痛み、天気と無関係に続く痛み、関節の変形が見られる場合は、整形外科などの医療機関を受診してください。
【参考・出典】
- Jena AB, Olenski AR, Molitor D, Miller N.「Association between rainfall and diagnoses of joint or back pain: retrospective claims analysis」BMJ, 359:j5326, 2017.(155万人・1,167万回の受診データ) DOI: 10.1136/bmj.j5326
- Ferreira ML, Hunter DJ, Fu A, et al.「Come rain or shine: Is weather a risk factor for musculoskeletal pain? A systematic review with meta-analysis of case-crossover studies」Seminars in Arthritis and Rheumatism, 65:152392, 2024.(11研究・15,315人) DOI: 10.1016/j.semarthrit.2024.152392
- Yimer BB, Schultz DM, Beukenhorst AL, et al.「Heterogeneity in the association between weather and pain severity among patients with chronic pain: a Bayesian multilevel regression analysis」Pain Reports, 7(1):e963, 2022.(13,000人以上) DOI: 10.1097/PR9.0000000000000963
- Dixon WG, Beukenhorst AL, Yimer BB, et al.「How the weather affects the pain of citizen scientists using a smartphone app」npj Digital Medicine, 2:105, 2019. DOI: 10.1038/s41746-019-0180-3
- Funakubo M, Sato J, Obata K, Mizumura K.「The inner ear is involved in the aggravation of nociceptive behavior induced by lowering barometric pressure of nerve injured rats」European Journal of Pain, 14(1):32-39, 2010.(ラットでの実験) DOI: 10.1016/j.ejpain.2009.02.004
- Sato J, Inagaki H, Kusui M, Yokosuka M, Ushida T.「Lowering barometric pressure induces neuronal activation in the superior vestibular nucleus in mice」PLoS ONE, 14(1):e0211297, 2019.(マウスでの実験) DOI: 10.1371/journal.pone.0211297
カラダリセットラボ|本記事は接骨院院長(柔道整復師・施術歴19年目・のべ7万人以上を施術)が執筆・監修しています。