「筋肉痛は乳酸が原因」は、実はもう古い説でした
「乳酸が溜まって筋肉痛になる」「乳酸が疲労物質」——学校の授業でも聞いたことがあるかもしれません。非常に広く信じられている説です。
結論から書きます。**これは、もう数十年前に否定されている説です。**この記事では、なぜこの誤解が広まったのか、そして乳酸の本当の役割を整理します。
先に結論です。
- 筋肉痛(とくに運動翌日以降に出る痛み)の主な原因は、乳酸ではなく筋肉の微細な損傷
- 乳酸は運動後数十分〜1時間程度で血中からほぼ消えます。筋肉痛が出る24〜72時間後には、もう残っていません
- 乳酸は「疲労物質」どころか、体が積極的に使う燃料であることが分かっています
なぜ「乳酸=筋肉痛の犯人」と言われてきたのか
激しい運動をすると、筋肉は主に糖をエネルギーに変えて動きます。その過程で、酸素の供給が追いつかないとき、乳酸という物質が作られます。
昔は、この乳酸が筋肉に溜まって疲労や痛みを引き起こす「老廃物」だと考えられていました。運動中に筋肉がだるく感じるタイミングと、乳酸が増えるタイミングが重なっていたことも、この説を後押ししました。
しかし、タイミングが合いません
ここに大きな矛盾があります。乳酸は、そんなに長く体に残りません。
血中の乳酸は、運動をやめてから数十分から1時間程度でほぼ元の水準に戻るとされています。
一方、いわゆる「筋肉痛」——運動した翌日や翌々日に強くなる痛み(遅発性筋肉痛・DOMS)は、24〜72時間後がピークです。
乳酸が体からほぼ消えた後になって、痛みが強くなっていくわけです。この時間差だけでも、「乳酸が筋肉痛の直接の原因」という説明は成り立ちません。
では、筋肉痛の本当の原因は
Lewis PB, Ruby D, Bush-Joseph CA.「Muscle soreness and delayed-onset muscle soreness」Clinics in Sports Medicine, 2012
遅発性筋肉痛には、単一の原因ではなく、複数の要因が重なって起きるとされています。
出発点は、**筋肉の細胞レベルでの微細な損傷(微小外傷)**です。とくに、伸ばされながら力を発揮する動き(下り坂を走る、重いものをゆっくり下ろすなど)で起きやすいとされています。この損傷をきっかけに、炎症反応が起こり、体液・電解質のバランスが変化し、筋肉のけいれんのような状態が重なって、痛みとして感じられます。
つまり、筋肉痛は**「乳酸が溜まった結果」ではなく、「筋線維が実際に傷ついた結果としての炎症反応」**だった、ということです。
乳酸は「悪者」どころか、体が使う燃料でした
さらに踏み込むと、乳酸そのものの評価が、この数十年で大きく変わっています。
Ferguson BS, Rogatzki MJ, Goodwin ML, et al.「Lactate metabolism: historical context, prior misinterpretations, and current understanding」European Journal of Applied Physiology, 2018(総説)
乳酸は1780年に発見されて以来、長らく**「酸素不足の際にできる、有害な老廃物」**として扱われてきました。しかし1980年代に「乳酸シャトル」という考え方が登場して以降、理解が大きく変わりました。
乳酸は、体内を移動しながら積極的に燃焼される燃料であり、酸素濃度に関係なく血管新生を促す信号としても働くことが分かってきています。
「乳酸が溜まるから体に悪い」どころか、乳酸は体が有効活用しているエネルギー源だった、ということです。運動中にきつく感じる感覚と乳酸の量が同時に増えることは事実ですが、乳酸自体が"犯人"というわけではない、というのが現在の理解です。
私が現場で伝えていること
正直、私も以前は「乳酸が溜まると筋肉痛になる」という説明を使っていました。今は、**筋肉痛は"筋肉の修復作業が始まっているサイン"**という伝え方をするようにしています。
これは「筋トレは最強のソリューション」は本当かの記事とも関係します。筋肉痛が出るような負荷は、体が適応しようとしている過程の一部です。乳酸を悪者にして「なるべく溜めないように」と考えるより、筋肉の回復(休養・栄養・睡眠)に意識を向けるほうが、理にかなっています。
よくある質問(FAQ)
Q. 運動後にストレッチをすると乳酸が抜けるって本当ですか? A. 乳酸は運動後すぐに代謝されるため、翌日の筋肉痛の予防という意味では、乳酸を「抜く」という発想自体が的外れです。ストレッチ自体に別の効果はあるかもしれませんが、乳酸対策としては根拠が薄いです。
Q. 筋肉痛がひどいときに痛み止めを使ってもいいですか? A. 痛み止めの記事でも触れましたが、運動直後のNSAIDsの習慣的な使用は、筋肉の回復シグナルを鈍らせる可能性が指摘されています。単発の使用と、日常的な使用は分けて考えてください。
Q. 筋肉痛が出ないと、効果がなかったということですか? A. いいえ。筋肉痛の有無は、トレーニング効果の指標として必ずしも当てになりません。痛みがなくても、筋肉には十分な刺激が入っていることがあります。
Q. 運動中の「きつさ」は何が原因ですか? A. 乳酸だけでなく、水素イオンの蓄積、筋肉内のエネルギー枯渇、神経系の疲労など、複数の要因が関わっているとされています。単純に「乳酸のせい」とは言い切れません。
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まとめ
まとめポイント
- 「筋肉痛は乳酸が原因」は、タイミングが合わないため成り立たない説(乳酸は1時間程度で消えるが、筋肉痛は24〜72時間後がピーク)
- 筋肉痛の主な原因は、筋線維の微細な損傷と、それに続く炎症反応
- 乳酸は「疲労物質」ではなく、体が積極的に使う燃料であることが1980年代以降の研究で分かってきた
- 「乳酸を溜めない」より「筋肉の回復に意識を向ける」ほうが理にかなっている
※本記事の情報は一般的な健康情報の提供を目的としており、医療アドバイスではありません。強い痛みが続く場合は自己判断せず医療機関にご相談ください。
【参考・出典】
- Lewis PB, Ruby D, Bush-Joseph CA.「Muscle soreness and delayed-onset muscle soreness」Clinics in Sports Medicine, 31(2):255-262, 2012.(総説) DOI: 10.1016/j.csm.2011.09.009
- Ferguson BS, Rogatzki MJ, Goodwin ML, et al.「Lactate metabolism: historical context, prior misinterpretations, and current understanding」European Journal of Applied Physiology, 118(4):691-728, 2018.(総説) DOI: 10.1007/s00421-017-3795-6
カラダリセットラボ|本記事は接骨院院長(柔道整復師・施術歴19年目・のべ7万人以上を施術)が執筆・監修しています。